【教科書と城】小学校歴史教科書に登場する「城」の紹介~学習指導要領と教科書制度を踏まえて~

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概要

子どもたちが日本の歴史を本格的に学習するのは、小学校6年のときからである。
学習する内容や方法などは、「学習指導要領」と「学習指導要領解説」(以下、「解説」という)に従うものとされている。
学習指導要領は、全国どこの学校でも一定の学習水準が保てるように、文部科学省が専門家による議論や、民からの意見を踏まえて定める学校教育の基準で、概(おおむ)ね10年ごとに改訂される。
解説は、学習指導要領の記述の意味や解釈などを詳細に説明したもので、学習指導要領の改訂と併せて作成される。




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授業で使われる教科書は、教科書会社が学習指導要領と解説に基づいて作成するが、文部科学省がおこなう教科書検定に合格する必要がある。
本稿では、現行の小学校学習指導要領及び解説や教科書制度について整理した上で、小学校歴史教科書で取り上げられている城を紹介する。

現行の小学校学習指導要領及び解説の内容

現行の小学校学習指導要領は2017年(平成29年)に改訂されたもので、2020年度(令和2年度)から全国の小学校で、この学習指導要領を踏まえたさまざま教育活動がおこなわれている。
歴史に関する学習内容は第3学年及び第4学年でも少しみられるが、本格的な歴史学習は第6学年で政治に関する分野を学習した後に、6月中旬からおこなわれる。

学習指導要領及び解説には、「知識及び技能」や「思考力,判断力,表現力等」を身に付けさせるための学習内容やその取扱い、学習指導計画の作成にあたっての配慮事項などが示されている。
「知識及び技能」については、「遺跡や文化財,地図や年表などの資料で調べ,まとめること」とあり、具体的な方法として「地域の博物館や資料館等を活用したり,学芸員から話を聞いたりして調べること」が示されている。
「思考力,判断力,表現力等」については、「代表的な文化遺産などに着目して,我が国の歴史上の主な事象を捉え,我が国の歴史の展開を考えるとともに,歴史を学ぶ意味を考え,表現すること」とある。
そのための学習として、誰がいつ頃、何のためにつくったのか、歴史上の意味や価値などについて、「問いを設けて,我が国の代表的な文化遺産について調べること」が例示されている。

学習指導にあたっては、「国宝,重要文化財に指定されているものや,世界文化遺産に登録されているものなどを取り上げ,我が国の代表的な文化遺産を通して学習できるよう配慮すること」とある。
現在、国宝の城郭は姫路城、犬山城(愛知県)、彦根城(滋賀県)、松本城(長野県)、松江城(島根県)の5城、重要文化財に指定されている城郭は、丸岡城(福井県)、高知城(高知県)、宇和島城(愛媛県)、松山城(愛媛県)、弘前城(青森県)、備中松山城(岡山県)、丸亀城(香川県)の7城である。
姫路城は1993年(平成5年)12月に日本で初の世界文化遺産に登録され、首里城(沖縄県)も2000年(平成12年)12月に世界文化遺産に登録された。




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なお、国宝や重要文化財だけではなく、「地域の実態を生かし,歴史上の主な事象に対する関心や理解を深める観点」から、居住地の県や市の指定る文化財などを教材として取り上げることも推奨されている。
また、今回の改訂では、これまで小学校歴史教育において重視されていなかった北海道と沖縄の歴史についても「アイヌの人々には独自の伝統や文化があること」、「現在の沖縄県には琉球の伝統や文化があること」にも触れることが加わった。

以上のように、現行の学習指導要領及び解説においては、城そのものの扱いについては示されておらず、国宝や重要文化財、世界文化遺産、地域の文化財の一つとして、城を扱うことになる。

現行の小学校歴史教科書

学校教育法第34条には、小学校のすべての教科で文部科学省の検定を経た教科書(正式には「教科書用図書」)を用いて学習しなければならない、と定められており、教科書が子どもたちに渡るまでには、以下の手続きを経なければならない。
【作成】
教科書会社は学習指導要領及び解説、「教科用図書検定基準」などをもとに教科書を作成し、教科書検定の申請をおこなう。
【検定】
文部科学大臣は、教科書調査官による調査や「教科用図書検定調査審議会」の答申に基づき、編纂された教科書が学習指導要領及び解説、教科用図書検定基準に適合しているかの合否を判断する。
【採択】
小学校で使用する教科書の場合、教科書検定に合格した数種類の教科書の中から市町村教育委員会が教科ごとに1種類を採択する。
【発行】
採択された教科書は、文部科学大臣からの指示に基づき、教科書が必要数を発行し、供給業者(書店)を経由して小学生に無償で配布される。

小学校の教科書は4年ごとに検定がおこなわれ、教科書の執筆・編集から使用開始までは4年ほどかかるという。
2023年度(令和5年度)に使用されている教科書は、2019年度(平成31・令和元年度)に検定がおこなわれ、2020年(令和2年)1月・2月に発行されたものである。
歴史教科書は、教育出版『小学社会⑥』、東京書籍『新しい社会 6 歴史編』、日本文教出版『小学社会6年』の3冊が発行されている。

3社の教科書はいずれもワイド版(AB版)のカラー刷りで、多彩な写真やイラスト、グラフ、地図などが豊富にある。
内容・構成面では、見開き1ページの内容ごとに、学習のねらいや問い、キーワードが示されており、学び方や調べ方を示した特設ページやコラムも充実していてる。
子どもたちが関心・意欲を高めながら、主体的に学習に取り組んで「知識及び技能」や「思考力・判断力・表現力等」を身に付けることができるように、さまざまな工夫がなされている。
3社の教科書のうち。教育出版と日本文教出版の教科書は公民的分野との合冊で、政治・歴史・国際分野の順に構成されており、東京書籍は歴史編として単体である。

小学校歴史教科書に登場する城

小学校歴史教科書3冊(教育出版・東京書籍・日本文教出版)において、本文やコラム、特集ページ、写真、イラストなどで取り上げている城を掲載順に整理すると、以下のようになる。

【教育出版】
熊本城(コラム・写真)、吉野ヶ里遺跡(写真)、鞠智(きくち)城(特集・写真)、鎌倉武士の館(本文・イラスト)、元寇防塁(写真・地図)、安土城(本文・イラスト)、大阪城(本文・写真)、江戸城(本文・写真)、五稜郭(写真)
【東京書籍】
吉野ヶ里遺跡(本文・写真)、柳之御所遺跡(特集・写真)、鎌倉武士の館(イラスト)、元寇防塁(写真)、安土城(本文・写真・イラスト・地図)、大阪城(本文・写真)、名護屋城(写真)、江戸城(本文・写真)、弘前城下町(地図)、首里城(写真)、姫路城(特集・写真、裏表紙写真)
【日本文教出版】
吉野ヶ里遺跡(本文・写真)、鎌倉武士の館(本文・イラスト)、元寇防塁(本文・写真・地図)、中世山城(イラスト)、安土城(本文・写真)、江戸城(本文・写真・地図)、首里城(写真)




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以上であるが、3社の教科書で共通して取り上げられている城は、吉野ヶ里遺跡、鎌倉武士の館、元寇防塁、安土城、江戸城の5つであり、大阪城については、日本文教出版は取り上げていない。
学習指導要領及び解説では、国宝や重要文化財、世界文化遺産を取り上げることが示されているが、それに該当する城は、小学校歴史教科書には少ない。
東京書籍が平泉の柳之御所遺跡(世界遺産)・姫路城(国王・世界文化遺産)・首里城(世界文化遺産)を、日本文教出版が首里城(世界文化遺産)を取り上げているが、柳之御所遺跡以外は、小ぶりの写真と少しの説明に過ぎない。
これは、小学校の歴史学習においては、児童が興味・関心を持ちやすい織田信長豊臣秀吉、徳川家康などの人物を重視した学習活動がおこなわれやすいからだと考えられる。
実際、織田信長の安土城や徳川家康の江戸城については、本文中での記述内容や写真、イラスなどの扱いは大きい。

なお、取り上げられている城の本文やコラムでの記述内容、写真・イラストなどの扱いが、教科書によってどのように違うのかについては改めて探究する。

<主な参考文献>
・池野範男、的場正美、安野 功、ほか『小学社会6年』令和2年2月 日本文教出版
・大石 学、小林宏己、ほか『小学社会⑥』令和2年1月 教育出版
・北 俊夫、小原友行、ほか『新しい社会 6 歴史編』令和2年2月 東京書籍
『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)』平成29年3月 告示 文部科学省
『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 社会編』平成29年7月 文部科学省
「社会-令和2年 教科書特設サイト-教育出版」
「新しい社会|2年度用 小学校教科書のご紹介|東京書籍」
「教科書|小学校 社会|日本文教出版」

(寄稿)勝武@相模

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