岩櫃城【いわびつじょう】訪問記 真田幸隆のアイデア溢れる連携陣形

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真田幸隆真田昌幸真田信之真田幸村と言った真田家にもゆかり深い吾妻の岩櫃城(いわびつじょう)。
岩櫃城は、最初、鎌倉時代の吾妻太郎助亮が築城したと言う地元の伝承があるが、不明瞭な点が多く、築城年・築城主は不明と言った方が良いだろう。
加沢記では、1405年に越前の大野郡出身の斎藤基国の子・斎藤憲行が、吾妻に入った際に築城したとされている。

岩櫃山

岩櫃城は岩肌で有名な「岩櫃山」(標高802.6m)の東中腹にある。
さすがに、崖が露出している岩櫃山のてっぺんには城は築かなかったようだが、恐らくは監視台程度の機能はあったことだろう。

戦国時代に入ると、吾妻は斎藤憲広・羽尾幸世・鎌原幸重が領地を争い、信濃まで進出した武田信玄の家臣・真田幸隆が鎌原幸重らを支援する。
羽尾氏と鎌原氏は、出自が海野氏系で真田家も、いわば親戚であった。

岩櫃城の本丸から見た二の丸

1562年、岩櫃城主・斎藤憲広が、羽尾幸世と共に鎌原城の鎌原幸重を攻めて陥落させると、鎌原幸重は武田信玄を頼った。
そのため、1563年、武田信玄は真田幸隆ら3000を派遣し、岩櫃城を攻撃させたが、難攻不落であったため、真田幸隆は善導寺の僧を派遣し一旦和議を結び、日向源藤斎、秋山十郎兵衛、雨宮尊転、西山十郎左衛門らに命じて斎藤憲広の家臣の調略を行う。
そして、内応を取り付けると岩櫃城への攻撃を再開。
岩櫃城は内応者が出たと言う事で大混乱となり、一度、斎藤憲広も自刃しようとしたが、嫡子・斎藤憲宗に止められて、岩櫃城から逃亡した。

岩櫃城の堀

こうして、岩櫃城には真田幸隆が入ったが、その後、吾妻・斎藤家は何度が岩櫃城奪還を計るも失敗し、1565年秋、斎藤憲広の嫡男・斎藤憲宗は上杉謙信の援軍を得て、沼田城の栗林政頼や長尾憲景らの協力で、嶽山城に籠った。

岩櫃城の堀

この時、真田幸隆は、一計を試みて、嶽山城に和睦を申し入れ、人質を交換の交渉をした際、嶽山城の重臣・池田佐渡守を調略。
嶽山城から池田佐渡守が逃亡したのを見て、真田幸隆は、嶽山城攻めを行い、成田原の戦いで勝利し、斎藤憲宗と弟・斎藤虎城丸らは自害となり、嶽山城は陥落し、吾妻・斎藤家は滅亡した。

岩櫃城の堀

参考地図をご覧になると分かりやすいかもしれませんのでどうぞ。吾妻や真田家の城関係地図。

斎藤氏は、支城となる観音山城を、家臣で娘婿の柳沢安吉に与えた為「柳沢城」と呼ばれる。
真田幸隆の岩櫃城は、武田家の吾妻郡支配で中心的役割となり、真田家はその後、沼田城へも進出した。
織田信長織田信忠に攻められた武田勝頼が、新府城から逃げる際に、真田昌幸は岩櫃城へ迎えると提案したが、小山田信茂岩殿山城へ武田勝頼は向かうことを選択し、結果的に裏切られて自決している。

岩櫃城の「中城跡」




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平沢地区を岩櫃城・柳沢城で防御

岩櫃城を訪れてみて、わかったことは、単に岩櫃城と言う城を守る防御陣形ではないと言う事です。
このような防衛形式は初めて見ました。

岩櫃城

岩櫃城の本丸は標高594mで、南から攻めるには、此高200mを登らなくてはならず、しかも、支城の郷原城もあり、攻めるのが困難です。
となると、岩櫃城を攻めるには、北側の根小屋となる平沢地区からとなります。

岩櫃城の駐車場からの登山道

ほとんどの城は、このように防御が弱い方角がありまして、岩櫃城も南から攻めると比高200mですが、平沢地区からであれば、岩櫃城・本丸まで比高は83mで、崖もそんなに急ではないので攻略しやすいです。

岩櫃城の二の丸

しかし、岩櫃城の防衛は、その平沢地区まで入った敵から岩櫃城を守るものではなく、そもそも、その弱点である平沢地区への敵の進入を防ぐのが最初の防御態勢とみました。

岩櫃城の陣形

実は、その平沢地区に通じる道は、一本しかなく、しかも深い谷あいで、不動沢と呼ばれている「沢沿い」を駆け登っていく必要がある狭い道1本なのです。

その狭い沢沿いに登って来た敵は、岩櫃城より急峻な柳沢城(観音山城)と、岩櫃城の出丸となる「天狗丸」(岩櫃神社)に挟また渓谷である不動沢を通過しなくてはなりません。
当然、一気に多勢で攻め込むことはできませんので、少数にて攻め込むことしかできません。
防衛側としては、細く伸び、少数の集団となって襲ってくる敵勢が、不動沢から上がって来るのを待ち構えて、両側から挟み撃ち攻撃できる態勢となっています。

岩櫃城の大手を守る郭である天狗丸

上記は、平沢地区にある岩櫃城の無料駐車場付近にある、出丸の「天狗丸」です。

観音山(柳沢城)

上記のように、柳沢城は標高532mで、比高は100mで上記の写真のとおり急峻な山城です。
単なる籠城をするだけであれば、この柳沢城だけあれば良いのですが、そこはさすが真田幸隆のように思えました。

岩櫃城の根小屋

この岩櫃城・天狗丸・柳沢城・郷原城の防衛網は、敵の第一目標となる平沢集落を守る陣形なのです。
上記写真の盆地が平沢地区です。

岩櫃城の本丸下の堀切

このように近くに支城を築いて、連携して防衛するのは、真田の里の砥石城(戸石城)・米山城・本城・枡形城に見られるように、その地の地形を生かして連携される事で、より強固な防御に通じると言う考え方があると思います。

岩櫃城の本丸

すなわち、守備する自軍の兵力が少なくても、有利な守備位置にて防御できるだけではありません。
単なる山城であれば収容できる守備兵数はどうしても限界が生じるのですが、この陣形であれば、防衛の兵力が2万の大軍になっても、盆地のような平沢地区にて充分に収容できる能力があるのです。

万が一、沢沿いに平沢地区まで敵の進入を許しても、その時点では岩櫃城・柳沢城にはまだ敵の進入を許したわけではないので、4方から包囲できる体制がとれる地形なのですね。
このように、周囲の地形そのものを「虎口」(こぐち)と考え、岩櫃城・柳沢城などが連携することで、敵に損害を多く与える事が可能な、この場所の地形を生かした防御陣形となっているのです。
※虎口と言うのは城郭の防御を施した出入口




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更に万が一、岩櫃城の本丸まで攻め込まれたとしても、背後の山である薬師岳方面へ逃走する退路も確保できているのです。
退路があると言う事は、包囲されて兵糧輸送が断たれると言う可能性も軽減できると言う事ですので、長期籠城にも向いています。
まさに、真田の生き残り術の真骨頂が岩櫃城であると感じます。

岩櫃城から岩櫃山方面の土塁

となると、岩櫃城を大改修したのは、ほとんど真田幸隆だったのではないかと推測致します。
そして、防御態勢を敷いて、敵を誘い込み殲滅する戦法は、真田昌幸や真田幸村(真田信繁)へと引き継がれていったのでしょう。

岩櫃城の駐車場

岩櫃城の駐車場

岩櫃城の駐車場へのアクセス・行き方ですが、下記の地図ポイント地点の場所の駐車場が一番便利です。
一応、トイレもあります。ただし、自動販売機はありませんでした。
ただし、2016年の大河ドラマ「真田丸」に合わせて、その駐車場の設備が刷新されるような話も聞いています。

平沢地区に行くには、ちょっと、狭い所から入って行き、道がわかりにくいですので、カーナビで上記地点を設定してから行くと良いです。
上記地図は、縮尺を変えて地図を細かくしてご覧ください。

岩櫃城の本丸は「屋敷跡」とも言う

平沢の駐車場から、岩櫃城の本丸までは歩いて約15分と言ったところで、見学所要時間はさ~っとみて約40分となります。

岩櫃城から郷原城方面への道

なお、現在ある岩櫃城への登山道や、岩櫃山への登山道は近年に行きやすいように設置されたもので、戦国時代の道は埋もれてしまっているようです。

岩櫃城の本丸

虫が結構いますし、クマ注意にもなっていますが、本丸までは子供やスニーカーでも登れる比較的優しい道になっています。
夏場の場合、熱中症対策と、虫よけなどを持って行くと良いでしょう。

岩櫃城の本丸から見た二の丸

戦国時代には、竪堀の底から登って行くような感じてはなかったかと推定されているようです。
すなわち、大手道のようなモノはなく、簡単に岩櫃城へ入れるような構造では無かったようです。
※大手(おおて)と言うのは城郭の正式な玄関口で通常は通行しやすいよう広めになっている。

岩櫃城の案内図

こんな父の築城技術を更に発展させて、敵を深く迎えて討つと言う上田城を、真田昌幸は築いたものと言え、この岩櫃城にて真田信之や真田幸村は育ったと言えるでしょう。

徳川幕府が成立すると、一国一城令により、岩櫃城は1614年に廃城となりました。

ちなみに、武田勝頼が当初、岩櫃城に落ち伸びようとした際に、迎える為の邸宅を築いたとされる郷原の「潜竜院跡」にも行こうとしたのですが、最後の右折のところからの東に延びる道が、軽自動車でも通行が難しいのでは?と思える幅の狭い道でして、断念しバックで戻りました。
手前の郷原地区に、新しく駐車場ができていたのですが、そこから徒歩だと15分くらい掛かりそうだったので、時間の関係で今回は断念した次第です。

真田幸隆に関してはこちら
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